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NZ南島トレッキング・フィヨルドの風と稜線のケプラートラック 中編1

前編はこちらから

ケプラートラックへ出発!

まだ薄暗い部屋の中、腕時計の振動がニワトリの代わりに起きる時間を告げる

サマータイムでNZは日本より時差4時間早く進んでいて体内時計は『午前1時』なんだけど爆睡できたおかげでスッキリ!いつもの朝の”おつとめ”も無事完遂し、設定したスマートフォンのグーグルマップをカーナビにして出発

驚いたことに20分もしないうちに出発地点のカーパーク(駐車場)に着いたのだった

意外と停めてある車は多いが、他に人の気配がなさすぎて不安になってしまい『間違ってないよね、ココ?』とカーナビを2度見してしまうほど

見つけたシンプルな案内標識で確認できたら、山で使わない荷物は全て後部荷室に積み込んで、いかにも『車内には何もありません』状態にしてしまおう

そうして4日後にレンタカー君と無事再会を祈りつつ、靴ひもを締め直していると、どこからか羽アリの大群が襲来、耳の中まで侵入してくるんだ
「ワアアアッ」とむき出しにした肌をウエアで覆い、いそいそと歩き始めた


ここで羽アリの洗礼が…


すぐに苔むした気持ちのよいトレイルがスタート


90分ほどで休憩ポイント Brod Bay(ブロードベイ) へ ここは水タンク・ベンチがある


ようやくトレッカー出没 そして左側の彼女もまたサンドフライ対策の虫除けをヌリヌリ


膨大すぎて、海のようなテアナウ湖


ウォータータクシーでショートカットしてアプローチする人たちが!
時間がない人には便利な手段、ちょっぴりうらやましかった(笑)

DOCビジターセンターでもらったマップはシンプルだけど必要かつ充分だった

天空の稜線をめざして

BrodBayから本格的な登りがスタート
植物園の中を歩いているんじゃないか、と思うほどの鮮やかなグリーンワールド

道はよく整備されており、歩きやすいはずだが、足の長い欧米系作業員が受け持ったせいなのか、短足なウチには段差が大きく感じられて、時々フクラハギがツリそうになる

バックパックに忍ばせたビールの重みを気にしながらも夢中で高度を稼いでいった

2時間ほどでようやく空がみえてきた!!そして、そこが森林限界だった

覆っていた屋根が消えると、全体の色がガラリと変わる


風が汗と、つっかえた何かを気持ちよく吹き飛ばす 空がみえたのが嬉しくて思いきり歓声(奇声?)

テアナウ湖の形がわかる やはり海じゃなく、湖だったのだ

日本であまり見たことのない世界が広がる 風に呼応して草原がゆれている


天空のルートは開放感たっぷりで、どこまでも草のジュウタンが広がって、見渡せた

途中、湿原が現れると尾瀬ヶ原のような木道になって、そのまま小屋へたどり着いた

LUXMORE HUTで遭遇したのは

到着した小屋はLUXMORE HUT(ラクスモア・ハット)
ちなみにNZは小屋のことをHUT(ハット)と呼ぶ だから「HUT to HUTの旅」でもある

収容人数60名の山小屋は完全予約制になっており、先着順で2階に設えた2段ベッドの好きな場所を陣取る
早く到着すれば、それだけ気に入った睡眠スペースを確保でき、炊事や食事エリアの窓際の席にありつける


ガスコンロと水場、そしてテーブル・ベンチがあるだけのシンプルな共有スペースはけっこう広い

到着してから寝るまでの長い時間をココで過ごせるよう快適なエリアとなっている
左側にいるのはDOCレンジャーのPat(パット)小屋番の役目もしており、キレイに保てるのは彼のおかげ


ガスコンロが備えている分だけ、荷物が減らせるのはありがたい(コッヘルは持参)
だが点火にライターが必要でうちらも含めて持ってない人が何人かいた
『ライター貸して』と喫煙者は人気だった(笑)


デッカイ窓の向こうの絶景を眺めながら


日本の山小屋のような売店はないので…持参したビールのプルタブはソーッとあけよう


夜8時ぐらいまで明るいので、夕方6時を過ぎても、どんどん人がやってくる
『早立ち早着き』が基本の日本式登山では考えられないが、夏日の長いNZならでは


のんびりラム紅茶をすすっていると窓の外に虹が!国籍に関係なく誰もが反応して虹に眼が輝く

夜7時半、レンジャーのPatが安全ミーティングを開くと、共有ルームにほぼ全員が集結し、真剣に耳を傾けていた
天気のこと、明日からのルートのこと、気をつけた方がいいことを説明していたようだ

ミーティングが終わると皆Patのところへ並び、DOCでもらった宿泊クーポンを渡しはじめた 確かにトレッカーが来るたびに宿泊受付するより、夜にまとめてチェックインした方が効率よい

うちらの順番になり、いつものように『耳が聞こえないこと』を話す

「ボードに書いた気象情報に目を通しなさい、そして明日、出発前に私の部屋に来なさい」とうちらの肩を軽快にポンポンとたたく向こうでPatの優しそうな目が「大丈夫だよ」といっているようだった

小屋は土足禁止なので床もキレイ スリッパ代わりにしたビーチサンダルが役に立った


まだ明るいが、そろそろ寝る時間
そのとき、窓の向こうで何かが飛んでいるのがみえた

それは会いたかったKEA(ケア)こと、野生のオウムである

実はNZ航空の機内ビデオで、このオウムがイタズラ好きで羊の背中にのったりするシーンがあって
会えるのかな、と歩きながら期待していたのだ

彼らはとてもお茶目でうちらが覗いているのを横目で意識しながらエサのおねだりをしたり、羽根を広げて、脇腹の鮮やかなオレンジ色を自慢げに披露したり、そうかと思えば、デッキの釘に歯をたてながら、片足で仲間をはねのけあったりする

この動きがとても愉快で飽きずにずっと眺めていたら、Patが通りかかった

そして裏のドアをあけ「KEAに近寄っていいよ」と手招きしてくれる


オウムとはいえ、野生動物だ
緊張しながらも彼らと見つめあい、その瞬間を共有した

KEAと遭遇したのが嬉しくて、その夜はシュラフにくるまって、幸せな眠りについたのだった
(続く)