お椀と箸だけで川の向こうへいく勇気あるミッションはワクワクしてしまう
小さな体という個性を利用し、旅の道具を日常ある身近なものを工夫して手に入れてしまったのだ
「カメに乗る浦島太郎」や「クマにまたがる金太郎」もなかなかイイ線をいっていると思うが、やっぱり水の上を
[自由自在に旅する一寸法師]はパドルボードのパイオニアであり、ウチの中では永遠のヒーローなのだ
親が活動した青年会の夏イベントで山奥の河原でキャンプにいっていた
夏だというのに森からひんやりした空気があふれ、重たいキャンバス地の色あせたオレンジ色の三角テントの前には
大人の昼寝ベッドであるエアマットがひっそり横たわって、出番を待っていた
火おこしに勤しんでいた大人の誰かが、その特上席を酒飲むときに腰掛けようと狙っていたはず
だが、そうと知らないウチは気づいたらエアマットを浮力にして、目の前の川の流れに身を任せ
バーベキューに夢中の大人たちの足元をすり抜けて、木の葉のように[水上の旅人]になったのだ
増水した清流は流れが速く、どこまでも進んでいくのが面白かった
そこから眺める風景は炊事をしている人たちや岸の草木や大小の岩が前から後ろへと過ぎていき
そして川の水が色々な形に変化しているのが不思議で、飽きずに眺めていた
途中、堰があって、これ以上進めないと河原に上陸し、大きなエアマットを引きずりながら
ゴロタ石だらけの道を戻っていくことのなんて遠かったことか
大人たちが青ざめて探していることもつゆ知らず[ひとり遠征]に満足したウチは
そう、一寸法師になりきっていたのかもしれない
水の上に浮かぶことはもちろん、陸から簡単に行けない無人浜に上陸できたことが冒険心をかきたられて新鮮だった
そこには今まで見たこともない世界が果てしなく広がっていた
歩きまわるヤドカリの横に落ちている流木を集めて焚き火をし、パチパチとオレンジ色の光がうごめく
まだ温かい砂の上に横になると無数の星空が舞い降りてきていた
すっかり舞い上がったウチはついにフォールディングカヤック [カフナ]を手に入れてしまったのだ
だがカヤックの組立、解体は毎回、大汗をかいてしまって気軽に、とはいかなかった
それが缶ビールをあけるようにエアバルブをひと回しただけでプシュと空気が抜けていき
折りたためるSUPボードの手軽さは、幼少時代のエアマットで遠征した、あの感覚を呼び戻した
まさに現代版の一寸法師のようにどこへでも、水の上を自由自在に動けるもの
それはキレイなサンゴを踏むことなく海上に浮かぶ宇宙船でもあるのだった
さあ、次はどこへいこう