10時間は歩いただろうか
[峠のてっぺんにある門 Photo by MH]
3000m超の峠から1600m近くまで降りていって、また3000m超を目指す
足は棒のようだった
日は沈み、森の中が暗くなっていく
ロッジのある村まで、まだ遠く、小さな茶屋に泊めてもらう
この茶屋に外人が泊まる、なんて滅多にないらしく
おばちゃんは困った顔で
「こんな部屋しかないけど」と重い鍵を取り出して、案内してくれた
[柱にあったネパール人の落書き]
うちらは寝袋を持ってきているから
体を休めるベッドとお腹を満たす食事さえあれば
納屋のような部屋でも、それで充分だった
この時、裏庭で1頭のブタがしめられたばかりで
小学生くらいの子どもがブタの毛を焼いていた
そのあとブタを吊るすのだがあまりに大きく重く、
3人がかりでも持ち上げるのが大変だった
ウチには見慣れない情景で衝撃的だったけれど『生命』に向き合う時間である
[少年がくわえているのは懐中電灯]
そしてブタを解体し始めた
聞くと、歩いて5日かかるナムチェバザールへ売るため、だそうだ
[こんな感じで行商へ]
この売るお金が、一家の生活資金になる
庭にはカワイイ子豚がたくさんいたけれど、大きいのが見当たらなかった
絞められたブタは親ブタだったのだろう
今まで庭に一緒にいたブタがこの日を境にいなくなってしまうのである
「淋しい」という感情はあるのだろうか…
吊るされたブタとそれに格闘する人を
見つめながら、色々な感情が頭の中を駆けめぐる
丁寧に料理をするおばちゃん
脂身がたっぷりあって、初めて味わう食感だった
マサラ等のスパイスが効いて、ご飯が進む
1つずつ大切に噛みしめながら、ね
そうして、うちらの体にブタの生命が宿っていき
明日を生きるエネルギーとなっていくのだった
[番外編]
このちょっと過酷なトレッキングで
みんな風邪にやられて大変だったのだけど
後日、ガイドは
「あの豚肉を食べたから風邪をひいたんです」と言った
(うちらは「それは違う」と突っ込みたかった)
[一番右がガイドのプラベ]
それほど、豚を食べることが珍しいということだろう
ネパールの食事メニューにブタは滅多に載っていない
(もちろんヒンズー教文化でビーフもあまりない)
先にも後にもブタを食べたのは、この夜だけであった