毎日を旅するように暮らす筆談トラベラーのサイト

バラナシの長い夜(後編)

(中編から続き)

アナログ時計をのぞきこむ
逆算したら翌朝5時までに列車を発たないと飛行機にとても間に合わない

PM11:15
「車をチャーターするか?」
駅の外にたむろしていた自称ドライバーと交渉

所持するインドルピーをオーバーする額で掲示される
高くて払えないアクションするとドライバーも自信なさげに「電車の方がいいよ」と手を振る

気づくと駅ナカの人々は毛布を敷いて寝始めていた
始めから野宿する気満々かのようにみんな寝具の用意がいい

PM11:23
買い込んだ水の入ったバッグなど全部持ち歩いて英語が出来そうな人を探しまわる
線路に面した小部屋にチカチカと蛍光灯がつき、のぞくと人がいた

古い木製デスクと椅子に座る目のパチクリした小柄な青年は英語が書けた
「12332はまだ動いていない」
「30分後に再びココに来い」
では”任務終了”とばかりに乗務名簿をペラペラめくっていた

PM11:35
夜も深くなり、全てが止まったような錯覚を覚えた


ホーム上にも大きな布にくるまって寝ている人が出没しはじめる

PM11:48
さっきの部屋へいくと山小屋管理人のような体格のいいヒゲオヤジがいた

『どうしたんだい?』
事情を話すと調べてくれた
B7ノート5ページぐらい、筆談やりとりをした

要約すると、一番早い列車はAM1:45に来る予定
ハウラー駅(コルカタ)に着く時間は保証できない
それでもいいなら、と寝台座席を変更してくれたのだった

外国人バックパッカーも見かけず、インド人だらけで窓口はクローズしまう中で
親身に対応してくれたのが嬉しくて、何度も”THANK YOU”を書いた

AM0:15
ようやくホームのベンチを陣取り、シュラフを広げてダウンジャケットを着込みザックを枕にして横になった

AM0:32
底から冷気がジワジワ刺って眠れない
さらにウインドブレーカーなどを袋から出して敷きこむ

列車の時間が気になって、荷物はMHにみてもらい、一人で電光掲示板をみにいく
目標の列車は AM2:45にズレこむ
トボトボ戻ると異変に気づく

MHが1人になったのを狙って、少年が荷物を狙ってきたのだ
ウチが戻ると一度は逃げたが、水や食料の入ったバッグを奪おうとした

抵抗して追い返すと近くにいた大人のインド人が少年を叱ってくれた
けれど少年は顔色ひとつも変えなかった ストリートチルドレンかも

この駅には改札口がない
ってことは牛やバイクだけでなく、どんな人も出入り自由なのだ

どこかで聞いた話だけど、戦場で一番怖いのは腕のいい狙撃手でなく、愛も傷も知らない銃を持った少年だと…

この少年もそうかもしれない
奪おうとまた狙ってくる 悪びれる様子もない
この2つの小さな目はまばたきもせず見開いたまま顔色を伺うこともなく、ただ目の前の獲物を欲しがっていた

「やばい!」体こそ小さいが見えない銃をもっている

広げたシュラフやらを仕舞いこみ、荷物をまとめて移動した
インド人が布をかぶって、寝ている床の一角へ

AM2:15
例の少年がさらに年上の大きな体をした少年3人を連れて、探しまわっていたようで
うちらの居場所を見つけてしまった

目が合い、睨みつけた
何かのビームを悟ったのか一番ボスが大声で何かをしゃべった

その途端、寝ていた周囲のインド人がもぞもぞ動き始め、そして硬直した
この反応をみると多分「卑猥」なセリフだっただろう

そうして少年グループは去った
寝たふりをした隣のおばあさんが起き、大きな毛布で慎重に全体を覆い直して沈んでいった
うちらはココを立ち去るしかなかった

AM3:40
列車の時刻は最終的にAM4:45にずれこんだ
有料トイレ入口にお金をとる人がいてこの周りにもたくさんの人が寝ていた
多少臭ってくるが寝ている人の間に埋もれて隠せる格好の場だった

片方が寝て、片方が見張りをし、ひたすら列車が来るのを待った


毛布の海に包まれて

AM4:50
線路の向こうで列車の灯がみえてきた
気づくとMHはホームを駆け出して列車の方に向かっていった

夜露のせいなのか熱いものがこみ上げてウチにはその灯りが霞んでまぶしかった

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追伸:時間は当時の記憶を頼りにおおよその時間を時系列にしました