こんなはずじゃなかった、と思う瞬間が時々やってきた
前の晩、コックにあれほど頼んだビールが「正月でどこもクローズで買えなかった」というのだ
なんてこった!
そんなうちらをふびんに思ったのか、宿のオヤジがこっそり部屋にきて、後ろ手でドアを閉め、ロックした
一瞬、緊張が走る
すると唐突にズボンのポケットからボトルを取り出し「欲しいか?」とアゴをあげた
”客が置いたものでタダでいい” お礼をいう前にそそくさと部屋を去っていった
はやる気持ちを抑えつつ、見たことのないラベルビンを点検した
この異国で言葉は通じないけれど、酒を飲みたい気持ちが伝わって嬉しい気持ちの前になんだか恥ずかしかったよ
唐辛子と蜂蜜が入ったロシアウォッカ
それをティーポットのお湯で割ったのをすすると、独特の香りがした
かすかにジンに似た、この液体はうちらの内蔵をジワジワとオヤジの優しさと共に染み入るのだった
このバラナシも最後の夜だ
ポケットビンの残りをペットボトルに移しかえ、うちらは荷物をまとめて、ガンジス河をあとにした
さらば、あらゆる者たちよ